音楽も"骨で聞く"
骨伝導ヘッドホンが大反響
"骨で聞く"骨伝導ヘッドホンを開発、急成長の途上にあるのは、
ひとりの主婦が「世の中の役に立ちたい」と立ち上げたベンチャー企業。
耳に、ではなく、耳のすぐ前の骨の部分に、スピーカーヘッドを当てる。
音楽がきわめてクリアに聞こえてきた。耳の穴を指でふさぐと、音はさらに明瞭になった。
普通に耳で聞くのと比べても、音質にほとんど違いはない。
骨伝導ステレオヘッドホン「オーディオボーン」(税込み1万4490円)。
開発・商品化したのは骨伝導の専門メーカー、ゴールデンダンス。
人間の耳は通常、空気中を伝わる音の振動を鼓膜でとらえ、
「蝸牛」という器官を通して脳に伝える。この本来の空気伝導の過程をスルー、
直接骨から蝸牛に音の振動を伝えるのが、骨伝導の仕組みだ。
この技術はすでに、補聴器をはじめとする聴覚障害者向けの製品や、
軍用のヘッドホンなどに使われている。2年前には、
あごの骨や頭部に押し当てて音声を聴く携帯電話機も発売された。
だが、これまでの骨伝導スピーカーで伝わる音は、鮮明度に欠けた。
よりクリアで、音域の広い音楽にも対応する、
オーディオ用ステレオヘッドホンとして世に出たのは、
オーディオボーンが世界初だという。
「子供の学校のPTA活動をしていて、私でも何か世の中に役立つことができないか、
と思っていたのです。
そんなときたまたま出会ったのが、難聴者用の骨伝導補聴器でした。」
平成14年1月、ただの主婦にすぎなかった中谷明子さんが、夫の任徳さんとともに、
その骨伝導補聴器の販売代理店として立ち上げたのが、ゴールデンダンスだ。
会社設立後、独学で骨伝導について勉強。
メーカーにさまざまな商品開発の提案を行ったが受け入れられず、
「それなら」と自ら開発・製造を始めた。
音楽用として開発した骨伝導ステレオヘッドホンは、
音を伝える振動子の仕組みに独自の方式を考案、従来の音声通信用に比べ、
音域が50-5000ヘルツと、格段に広い。骨伝導振動子と、
骨の形に沿って自由に動く可動式のスピーカーヘッド、装着性に優れ、
コンパクトに折りたためる形状などを対象に、昨年10月、特許を申請した。
昨年12月末から本格的に売り出し、これまでに1万9000個を販売。
当初の窓口となったインターネットの「楽天市場」では、
発売後1カ月でランキング上位に入った。大手の家電量販店でも取り扱うようになり、
大阪・梅田のヨドバシカメラでは、1週間で200個を売り切った。
近く、音楽配信が進む携帯電話用のほか、トランシーバーと接続し、
声を聞くのも送るのも骨を介して行う通信用の「ダブルボーン」、
耳を酷使するコールセンターのオペレーター用「オペレーションボーン」を
新たにラインアップ。この秋には、
これまでにない補聴器タイプのものを商品化する。
大手メーカーへのOEM(相手先ブランドによる生産)供給も検討。
今年5月から韓国の工場が稼働を始め、
そこを拠点として視野に入れるのは海外市場だ。
「原点は、人に喜んでもらえるにはどうすればいいか。
いつもそれを考えています」という」中谷社長。
今年12月期の売上高3億円は、今ある商品だけでも見えてきている。
途方もない可能性を秘めているといわれる骨伝導技術。
その将来性に共鳴して、同社の急成長の足音がはっきりと聞こえる—。
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